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札幌高等裁判所 昭和48年(く)11号 決定

被告人 大村則子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、右弁護人ら共同提出の抗告申立書および申立趣旨の変更に関する上申書に記載されたとおりであり、要するに、札幌地方裁判所裁判官は、検察官のした保釈取消請求にもとづき、頭書被告事件のいわゆる第一回公判期日前である昭和四八年六月一二日、被告人に対する保釈を取消すとともに、保釈保証金一〇〇万円中五〇万円を没取する旨の裁判をしたが、右裁判は著しく不当であるから、その取消を求める、というのである。

そこで案ずるに、一件記録によれば、弁護人ら主張のとおり保釈取消および保釈保証金一部没取の裁判がおこなわれたことは、明らかであるけれども、右裁判は、札幌地方裁判所裁判官がいわゆる第一回公判期日の勾留関係処分としてこれをしたものであつて、同裁判所の決定でないこともまた認められる。してみれば、刑事訴訟法四一九条の明文の定めにより、右裁判に対しては抗告をなしえないといわなければならない。(なお、札幌地方裁判所は、弁護人らが右裁判に対し申し立てた同裁判所昭和四八年(む)第四八五号保釈取消決定ならびに保釈保証金没取決定に対する準抗告事件について、同年六月一九日右申立を棄却する決定をなし、その理由中において、原裁判に対しては抗告の申立ができる旨を説示しているが、当裁判所はこの見解に賛成することができない。また、右のような決定があるからといつて、本件抗告の申立が適法なものとなるとも解されない。)

よつて、本件抗告の申立は、その手続が右法条に違反する不適法なものであるから、同法四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(参考)

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、(申立の趣旨及び理由)

本件準抗告申立の趣旨及び理由は、弁護人提出の準抗告申立書記載のとおりなので、ここにこれを引用する。

二、(当裁判所の判断)

別紙記載のとおり

三、(結論)

そうすると、本件準抗告の申立は、前示のように第一回公判後においてなされたものであるから不適法として刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

別紙理由

本件準抗告申立の適否について判断する。

一件記録によれば、被告人は覚せい剤取締法違反により昭和四八年三月一日勾留され、公訴提起をうけた後の同月二八日保釈されたが、二度にわたる公判期日に不出頭しかつ制限住居違反により同年六月一二日右保釈は取消されるとともに保証金一〇〇万円(但し保証書五〇万円)中五〇万円を没取される旨の決定をうけ、同日収監されて直ちに第一回公判期日が開かれ、起訴状朗読、これに対する認否、検察官請求書証の取調べ、などの手続が行われたのち、同日付をもつて右保釈取消並びに保証金一部没取の決定に対し本件準抗告の申立がなされたことが認められる。

ところで、被告人の勾留、保釈に関する処分をするのは、当該受訴裁判所であるが(刑訴法六〇条以下の規定)、第一回公判期日前においては当該裁判所を構成していない裁判官が行うものとされている(同法二八〇条一項)。そしてこれらに関する処分に不服のある者は、裁判所が行つた場合には抗告を申立てることができ、裁判官が行つた場合には準抗告を申立てることもできるものと定められている。それでは、本件のように第一回公判期日前に受訴裁判所を構成しない裁判官が保釈に関する処分をしたのに対し、第一回公判期日後になつて、不服を申立てる場合、やはり準抗告の方法によるべきか否かであるが、当裁判所は次の理由によりもはや準抗告の方法によることはできず、裁判官の行つた処分であつても受訴裁判所が行つた処分と同一にみなし、抗告の申立をすることができるものと解するものである。すなわち起訴後において勾留を維持すべきか否か及び保釈の許否などに関する問題は、公判審理の運営に密接な関連をもち受訴裁判所がもつとも関心を有すべきものであるから、これらに関する処分は本来受訴裁判所が行うべきものとしてその専権に委ねられているのであるが、ただ第一回公判期日前は、予断排除の要請上、受訴裁判所の右権限が制約を蒙り、別の裁判官が代つて処理するものとされているのである。両者の関係は、一種の代理、代行類似の関係にあるとともに、第一回公判期日の前後にわたる関係では権限の承継ないしは処分効果の移転が生じうる関係にあるといつてよいであろう。例えば第一回公判期日前に、裁判官が保釈許可決定をし、第一回公判期日後に、被告人が右保釈許可条件に違反した場合、受訴裁判所が保釈取消決定をすることになるであろうが、これも両者の間に基本的に前述のような諸関係のあることが前提となつている。このことと、次に述べるような実質的な諸考慮、すなわち第一回公判期日前に裁判官が行つた勾留、保釈に関する処分に対し、第一回公判期日後においても、準抗告を申立てることができるとするならば、準抗告審の判断加何によつては、被告人の勾留、保釈などに関する処分権限を完全に取得するに至つた受訴裁判所の関知しない間に、被告人の勾留関係に変動をきたすことになり、公判審理上種々の不都合が生じうること、これに反して右のような場合、裁判官のした処分を受訴裁判所がした処分と目して抗告の方法を用いるとするならば、不服のある者は、抗告書を受訴裁判所に差出し、受訴裁判所は、刑訴法四二三条所定の再度の考案を行うことによつて、被告人の勾留、保釈に関し、勾留保釈関係記録のほかに公判審理を通じて直接に形成した心証を加えて、適切な判断をすることができることなどを考慮すると、第一回公判期日前に裁判官がした勾留、保釈に関する処分は、第一回公判期日後は、受訴裁判所のした処分とみなして、以後の手続をすすめることとし、これに対して不服のある者は、抗告をもつて争うべく準抗告の申立をすることができないと解するのが相当である。

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